井伊直弼が桜田門外の変で暗殺されました。井伊大老は敵を多く作りすぎたと後年の渋沢栄一は言っており、『渋沢栄一一日一訓』の次の一言を思い起こします。
なんの業を営むにせよ、人望ほど大切なものはない。(52ページ)
栄一は、井伊直弼をまったく評価していません。人望を得ることを無視したやり方だったからでしょう。
幕府側はこれから公武合体、八・一八政変、池田屋事件など、旧体制を維持するためのさまざまな努力をしますが、結果はご存じのとおりです。ふつうは「倒幕への大きな流れは変えられなかった」と言いたくなるところ、栄一は幕府側の「人望」がなくなっていったことを重視しています。
小池徹平さん演じる橋本左内は、死刑になってしまいました。左内は獄中で「正気の歌」を吟じていたと伝えられています。「正気の歌」は南宋の文天祥が、モンゴルの元に負けて捕らえられ、獄中で読んだ漢詩です。藤田東湖も渋沢栄一もこの「正気の歌」が大好きでした。ドラマでは、小池さんがこの漢詩を吟じるのを期待していたのですが・・・残念ながら、カットでした! 代わりに私がYouTubeで・・・いや、やめておきます。
竹中直人さん演じる斉昭も亡くなってしまいました。竹中さんは序盤を盛り上げた立役者だと思います。これで退場はもったいないので、悩める慶喜の枕元に現われて「そんな弱気でどうする!」と叱咤するシーンを切に希望いたします。
ドラマで栄一が本や手紙を読むシーンは、現代風に黙読していますが、本当はこの時代の「読み」といえば声に出す音読が普通です。しかもおしゃべりの栄一だから、黙読なんかするわけないのです。江戸に短期留学し、武州弁を丸出しにして『孟子』を音読し、他の生徒に笑われたとのちの栄一は語っています。語尾に「だに」をつける吉沢さんは非常に魅力的なので、フランスへ渡ってフランス語を話すときも語尾に「だに」を忘れないでほしいです。
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