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執筆者の写真坂本 慎一

『青天を衝け』第33回

渋沢栄一が銀行家として活躍していくに当って、『論語』を座右の書としました。『論語』は歴史上の様々な日中の儒学者が注釈をつけており、注釈者によって解釈が異なります。実際に栄一が手元に置いていたのは、朱子注釈の『論語』だったそうです。当時一番広く読まれていたオーソドックスなものを使ったと考えられます。その一方で栄一は、朱子学については非常に厳しく批判しました。手元にあるから余計に気になって嚙みついたのでしょうか。

後年は様々な注釈の『論語』を買い集め、世界一の『論語』コレクターになりました。その『論語』には、「老人になったら物欲を戒めなさい」とあります(君子に三戒あり)。栄一は「老人になったらコレクターになるな」と書いてある本のコレクターになったのでした。栄一と『論語』の関係は、一筋縄ではいきません。

設立した第一国立銀行で、大株主の小野組が破産しました。しかし、ドラマでもあったとおり、小野組の古河市兵衛が私的な財産も処分して第一国立銀行には迷惑をかけないようにしました。この古河は後に足尾銅山の開拓などで活躍する正真正銘の「山師」です。この山を買う、と決めたらハイリスク・ハイリターンの猪突猛進で、派手に仕事を進める人でした。

こういう人は経済をけん引する人ですが、直接おつきあいするとメチャクチャなので大変だと思います。栄一はそれでも古河が死ぬまで親しくつきあったというのですから、山師を手なずけることができる銀行家でした。こちらの面でも栄一は、一筋縄ではいきません。

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